おせち料理「凛」

年末に、ある方が「クリスマスやお正月って祈りがあるよね」と投稿しているのを読んで、
私は大きくうなづいていました。
 
「ハレ」と「ケ」という概念があります。
当店のお料理は「ケ」(=日常、毎日)の食事担当という想いでスタートしてきているのですが、
最近は「ハレ」の日のお料理のご依頼を頂くことも多くなり、
とてもとても光栄に感じています。
この3年ほどの社会の変化によって、
「ハレ」の日のお料理に求めるものが煌びやかさ、華やかさから、
祈りのようなものに変わってきているように感じます。

とはいっても、祈りがあろうがなかろうが、
人生にはいろいろなことがあるし、
大変なことも哀しいこともやりきれないことも起きるわけですが、
それでも、食べた後にからだの中で「ごはん」が働く力の凄さは限りなし。
電磁波や微生物など、
目には見えないけれど存在しているものたちと同様の概念ではありますが、
ごはんは食べた後こそが真骨頂。
細胞に届け。
誰もが忘れた頃にからだの中で頑張ってくれるごはんたちの力は、
その人の想像もできないチカラになったりするんじゃないのかなーなんて思って、
調理おたく道を邁進し続けています。
 
 
 
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さて、元旦の節句料理でもある「おせち」にはいろいろな云われがあります。
その云われと共に、当店のおせち料理『凛』の祈りを言葉にしてみたいと思います。
 
ごぼうはその形状にちなんで「細く、長く、幸せに」という願いがあります。
おせち『凛』では、ごぼうは「たたきごぼう」「きんぴらごぼう」「梅味昆布巻き」と
3つの形で登場しました。
たたいて繊維を柔軟にしたごぼうに、
ごまの香り漂う和え衣が絡む「たたきごぼう」。
一方の「きんぴらごぼう」は、
「はっとする~」でもお馴染みのぴりっと辛めでごぼうの繊維の強さを感じる一品です。
昆布巻きは、鮭や鰊(にしん)で作られることが多いですが、
ごぼうを昆布で巻いて干瓢で結んで、梅干しと共にコトコトと煮込みました。
梅とごぼうは相性がいいのですよね。
昆布は、よろこんぶ♪と語呂にもかけています。
 
この「巻く」と「結ぶ」もおせち料理の特徴です。
巻物は、書物の元型であり、智慧をつけていくことの象徴と考えられています。
学業成就という言葉を使うと、
成績を上げる、希望の学校に入るなど若者に限定的な意味合いになってしまいますが、
いくつになっても智慧をつけていくことはとても大事。
「伊達巻」は、伊達者=しゃれ者=目立つという意味で卵の黄色。
伊達巻が伊達政宗の大好物だった説もネット上には散見されますが、
それはいったいどうでしょうね?
真だらをすり身にし、卵白、大和いも、卵を使ってオーブンで焼き上げ、
鬼すだれでくるりと巻いて作っています。
 
結ぶは、やはり、縁を結ぶです。
「手綱こんにゃく」もそんな云われでくるんとひっくり返ります。
「手綱こんにゃく」は、昆布だしと醤油のみで土鍋でじっくりとコトコトと煮切りました。
 
 
♪穴のあいたれんこんさん♪は、野菜の中でも地中で横に這う希少な存在。¥たくさんの穴が開いていて、将来の見通しがよいと縁起をかつぎます。
れんこんは種が多いことから「子孫繁栄」の願いも込められた食材。
当店おせちでは、お花型に切る「酢れんこん」と破魔矢に刺さった「れんこんボール」となりました。
花れんこんがほんのりピンクなのは、
赤梅酢の力。
梅酢とりんごジュースを使って爽やかな甘みを演出しています。
「れんこんボール」は、
花れんこんの切れ端と煮物の型抜きの残骸である金時人参のすりおろしを活かして作っています。
 
背中がくるんと丸まった海老は長寿のシンボル。
大晦日の年越しそばの海老の背は真っすぐですが、
おせち料理の海老は丸まっているのが定番というところが面白いですね。
海老料理は毎年遊びたくなるのです。
去年までは人気の海老フライを入れていましたが、
今年は、その華やかな赤に敬意を表して「海老のチリソース」を入れさせて頂きました。
おせちの定番「黒豆」は、
まめまめしく今年も元気で働けますようにの願い。
錆びた古釘なんて、
今は逆にどこのお家で探してもないものですが、
その鉄分と共に煮ることでつやつやの黒色に煮あがります。
抗酸化力の強い黒豆ゆえの煮方です。
当店は本当に古い釘を入れて煮ています。
 
栗きんとんは、黄金色に輝く財宝にたとえて、
豊かさを願う料理です。さつまいもを裏ごしして、
紅玉りんごを甘みに使いさっぱりと仕上げたきんとんの中に、
秋の実りの代表格である栗の寒露煮を入れています。
 
「紅白かまぼこ」もおせちの彩には欠かせない存在。
今年も小田原の籠清さんにお世話になりました。
紅はめでたさを、白は神聖さを表現しています。
なますも同様に紅白の祝い料理ですが、
『凛』では、「焼きなます」という火を入れたお料理をご提供しています。
りんごジュース、醤油、梅酢を使った三杯酢のさっぱり味がお正月の味として毎年喜ばれています。
 
かたくちいわしの小魚(ごまめ)を使った「田作り」は、
五穀豊穣を願い、田畑に肥料としてごまめを撒いたことから名づけられた祝い肴三品のうちのひとつ。じっくりと煎ってから、醤油、酒、みりんで絡めました。甘過ぎず、ベタベタせずに美味しいとご好評頂いている一品です。
今年新入りの「菊花蕪」は、冬が旬のかぶをめでたい菊の形に飾り切りしたお祝い料理。生の酢の物が入ることで、ご馳走の消化促進に。
同じく今年初めてお重入りしたのが「ゆずまんじゅう」。
ぎんなんと百合根を上新粉と白玉粉のお餅でくるみ、蒸し上げました。柚子がほんのり香る滋味溢れるお祝いのお菓子です。
 
定番の「お煮しめ」は、家族仲良くとの願い。近しい関係ほど丁寧に、皆それぞれの持ち味を活かして、協力し合っていきたいものです。
今年はあらたな芽吹きを予祝する「くわい」と「海老芋」を入れさせて頂きました。
頭角を現すという「八ツ頭」も入れたかったのですが、
お重のスペースの都合で今回は持ち越しに。
八ツ頭は、新年の営業で、皆さまに広くご提供しようと思います。
 
ぶりは冬の旬のお魚でもありますが、
ぶりが成長に応じて呼び名が変わることから出世と出生を運んでくれる縁起物とされています。
とろけるような「ぶり照焼」、
毎年一番美味しかったという声も届くほど。
どうぞご賞味くださいませ。
 
煮豚は、元旦のご馳走というより
あると三が日のごはんに役立つよね、
ということでご希望の方には1本丸ごとお付けするというおせち料理にいたしました。